ウィリアム・モリスについて
英国の思想家、詩人であり近代デザイン史上に大きな影響を与えたウィリアム・モリス。「モダンデザインの父」とも呼ばれる。彼がロンドン郊外の裕福なブルジョア家庭に生まれたのは、今から170余年前。幼い頃より中世のロマンスの世界に憧れ、自然に囲まれた大邸宅で過ごす中で、のびやかで牧歌的な感性が養われていきました。やがて聖職者を志してオックスフォード大学に進みますが、当時の新進社会評論家ラスキンの著書に感銘を受け、ラファエル前派の芸術家(バーン・ジョーンズ、ロセッティら)と出会い、建築・美術・文学の世界にのめり込んでいきます。彼が新婚生活を送るために建てた「レッドハウス」は、設計から家具、壁紙、カーペット、タペストリーに至るまでモリスと友人達の手によるもので、“世界で最も美しい家”と呼ばれました。これを機に仲間と共に、“芸術と仕事、そして日常生活の統合”という理念を掲げたモリス商会を設立します。1880年代には、モリス商会と同じ理念を持つ工房やアトリエが多く生まれ、1888年に開かれた美術工芸協会の展覧会の名をとって、彼らの運動を「アーツ・アンド・クラフツ運動」と呼ぶようになりました。
彼のデザインの特徴は、自然の中に見出した美の探求といえます。「美しいと思わないものを家においてはならない」との考えから、職人の手仕事による、草花や樹木をモチーフとした作品を多く発表しました。緻密で繊細なデザインから生まれる様々なコレクションは今も世界中の人々に愛され続けています。特に日本人の感性に馴染みやすいのは、古くからある唐草模様のような落ち着きや、花鳥風月の心が感じられるからではないでしょうか。